介護はいつか急に始まるもの、と考えられがちです。しかし実際には、多くの場合、「少しずつ進む変化にどう気づくか」がポイントになります。
今回は、長年ひとり暮らしを続けてきた78歳の女性、Aさんの事例を通して、認知症と向き合いながら、どのようにケアプランが変化し、暮らしが支えられていったのかをご紹介します。
几帳面なAさんに見え始めた「日常の揺らぎ」
Aさんは78歳で、長年おひとりで生活されてきました。料理や掃除を一通りこなし、身なりもきちんとしている几帳面な方で、要介護1の認定がついているものの、ケアマネージャーが訪問した当初は「本当に支援が必要なのか」と思うほどしっかりしていました。
しかし、ご家族である娘さんからは、不安の声が上がっていました。

電話をすると話がちぐはぐになることが増えてきました。

先日家に行った時に、焦げた鍋がありました。火の消し忘れがあったようで心配です。
Aさん自身は「まだ一人で大丈夫」と言うものの、娘さんの相談を受けて、ケアマネージャーが関わることになりました。
初めて自宅にお邪魔すると、Aさんは明るく社交的な方でした。世間話や日常的な会話は問題なく、部屋の中は片付けられており一通りの家事もできている様子でした。
しかし訪問を重ねるながら細かく見ていくと、「日常の揺らぎ」が徐々に見えてきました。
• 薬の飲み忘れがある
• 食事の回数や内容が曖昧になっていた(質問する答えが曖昧・食べた物の内容がいつも同じ など)
• 自宅訪問の約束を忘れてしまう
・まちがいをとりつくろう
認知症の方は、初対面では緊張して“しっかりした自分”を見せようとされます。
けれど時間がたち、関係に慣れてくると、次第に肩の力が抜け、その方の普段の暮らしぶりが見えてきます。
最小限の支援からスタート 「本人のペース」を尊重
当初のケアプラン作成においては、Aさんの「私は大丈夫です」という気持ちと、娘さんの「無理なく、母のペースで」という希望を尊重しました。
そのため、サービスは最小限からスタートしました。
最初のケアプランは 週1回の訪問介護です。ヘルパーさんによる掃除や買い物といった家事支援が中心ですが、 “見守り” としての役割も同じくらい大切です。
認知症の進行とともに見えてきた「暮らしの変化」
介護サービス開始から数か月が経つと、認知症の症状が少しずつ生活に影響を及ぼし始め、さらに「暮らしの変化」が現れてきました。
【Aさんの生活に見られた変化】
・ 冷蔵庫に同じ食品が複数入っている
・賞味期限切れの物が放置されている
・洗濯物が数日分たまっている
・洗濯機の中でそのまま放置され乾いている
・火を使う調理を避け、パンや菓子だけの食事が増えている
・外出の頻度が減り、閉じこもりがちになる
・服装が毎回同じ、化粧をしない、頭髪の乱れなど身だしなみが整えられない
このようにこれまで「自分でできていたこと」が不確かになっていく現実は、ご本人にとってもご家族にとってもつらいものです。
ここで大切なことは、支援者がすべて代わりにやってしまうことではありません。
「ちょっとだけ手を添える」 という形で、暮らしを支えていくことです。
Aさんにはまだ、できることがたくさんあります。
その中で困るところを見つけてお手伝いします。
ケアプランとは、「その人らしい暮らしを支える仕組み」 なのです。
変化とともに進化するケアプラン
さらに時間の経過とともに認知症は進行し、Aさんのケアプランは生活の変化に合わせて変わっていきました。
【その後のAさんのケアプラン】 ⚫️は介護保険外のサービス
・訪問介護(週3回) 買い物・掃除・洗濯・料理など
・訪問看護(週2回) 健康管理と薬のチェックなど
・デイサービス(週2回)
⚫️配食サービス(毎日)
⚫️緊急通報装置
必要に応じてサービスを追加しますが、本人のペースを尊重することが大切です。
認知症の症状の変化に伴い、できていたことが難しくなっていきます。
その不安は本人も感じていますが、うまく表すことができません。
Aさんの不安や戸惑いに注目し、それがすこしでも軽くなるような仕組み=ケアプランを作ります。
この頃、Aさんは「見守られている安心感」を感じ取られたようで表情は穏やかでした。
「変化」はサイン それをキャッチして安心して暮らせる仕組みをつくる
Aさんの事例では、最初は軽い支援から始まり、変化に応じて支援を重ねていくことが大切でした。
このプロセスで、Aさんの生活は守られ、ご家族の安心にもつながります。
ケアプランは、「暮らしの変化」をキャッチして、安心して生活できるように整える仕組みです。
変化は決して悪いことではなく、私たち支援者がどのように暮らしを支えていくかを考えるサインになります。
ただし、最後まで自宅で暮らすことは簡単ではありません。
途中で施設を選ばれる方もいます。
その選択もまた、本人にとって安心して暮らせる場所を見つけた証と言えるでしょう。
※本記事は実際の支援をもとに、個人が特定されないように十分配慮し、内容を一部変更・再構成しています。
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