
在宅ケアマネジャーとして20年近く、数えきれないご家族と出会ってきました。
その中でも、今も心に残っているご夫婦がいます。
認知症の夫を、ずっとご自宅で介護されていた奥様。
私はその方の人生の一部に、そっと寄り添わせていただきました。
当初ご主人はまだ軽度の認知症で、卓球好きなご夫婦は二人で卓球場に行き楽しんでいました。若い頃からスポーツ好きなご主人は、初心者である妻のペースに合わせてラリーをしました。穏やかな時間でした。
けれど病気は少しずつ進行していきました。徐々に言葉数が減り、足の動きも悪くなり、やがて奥様の手助けなしでは食事も取れなくなりました。やがて寝たきりに。
奥様は介護サービスを利用しながら、時にはご自身が体調を崩すこともありましたが、ほとんど一人でお世話を続けていました。
「主人は家族のいるこの家が大好きでした。だから私がさいごまで家でみたいんです」
介護生活が2年ほど過ぎましたが、変わらないまなざしでご主人に寄り添い続けていました。
やがて食事だけでなく水分も飲み込めなくなり数日が経過しました。
そしてある日の明け方、奥様の見守られてご主人は静かに息を引き取りました。
奥様はその手を握りながら、穏やかな笑みを浮かべていました。
そしてしばらくした後、ご主人の手をそっと離しました。その時の奥様の表情は哀しみのなかにもなにか大切なものを秘めたようにおさやかな光を宿しているようでした。
このご夫婦には、訪問看護・訪問介護・訪問診療など、在宅での看取り支援を多職種で連携しながら提供していました。
在宅で最期を迎えることに、不安を感じる方も多いです。
でも支援体制が整えば、その不安をやわらげて「その人らしく」「家族らしく」過ごすこともできます。
大切な人との大切なさいごの時間です。
大切な人を看取るということは、簡単なことではないと思います。
「こんなこと聞いてもいいのかな?」
「不安な気持ちを聞いてほしい」
そんな時はどうか遠慮なく、介護サービスのスタッフにお声かけください。
このご夫婦から私は、「介護とは、お別れの準備の時間でもある」ということを教えていただきました。
さいごまでの日々にできることは限られています。
けれど、その時間をどう過ごすかは、本人と家族の想いで決めていいのだと思います。
介護に迷い、戸惑い、苦しむ人の心が、少しでも軽くなりますように。
そんな願いを込めて、私はこのブログを書いています。
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