① 暴言・暴力が出たとき、あなたは悪くない
認知症が進むと、それまで温厚だった人が突然怒鳴ったり、手が出るようになることがあります。家族にとって、これが一番つらいことのひとつではないでしょうか。
「なんでこんなひどいことを言うんだろう」「自分の介護が悪いのかな」と感じるかもしれません。でも、これはあなたのせいではありません。
暴言や暴力は、認知症の症状のひとつです。本人が「あなたを傷つけたい」と思っているわけではなく、不安や混乱、体の不快感が言葉や行動として出てきているのです。
そんなときに「正しく対応しよう」と頑張りすぎなくていいです。
- その場をそっと離れる
- 「そうですか」と受け流す
- 反論しない、謝らない
これだけで十分です。完璧な返し方なんてありません。あなた自身が深く傷つく前に、その場を離れることが最善の対応であることも多い。
「逃げた」ではなく、「自分を守った」と思ってください。
それが続くようなら、ひとりで抱え込まずにケアマネジャーや訪問看護師に相談を。第三者の目が入るだけで、状況が変わることがあります。
② 「正しい対応」なんてない。試行錯誤していい
「本人のペースに合わせましょう」とよく言われますが、実際には時間がなかったり、焦ったり、うまくいかないことの方が多い。
介護している側が焦ることは、ごく当たり前のことです。そこに罪悪感を持つ必要はありません。罪悪感が積み重なることの方が、介護者を追い詰めていきます。
大切なのは「試行錯誤していいんだ」と知ること。ひとつうまくいったら、それで十分です。
お風呂の拒否を例に考えてみましょう
何日も入浴を拒否する認知症の方は珍しくありません。これは「頑固」なのでも「サボっている」のでもなく、お風呂の入り方がわからなくなっていることが原因のひとつです。
お湯の出し方がわからない、シャンプーと石鹸の区別がつかない、脱衣所で何をすればいいか混乱している——そういったことが起きています。
無理やり入浴させようとすると、本人が怖がったり、転倒のリスクが高まったりします。関係が壊れてしまうことも。
臭いが気になる時もありますが、すぐに命に関わることでなければ、少し大目に見ていい場面もあります。
試してみる価値がある、よくある工夫の例
- まず落ち着いた声で声をかけてみる
- 拒否されたら、その日はやめる(また明日)
- 温かいタオルを渡して「顔だけ拭こうか」と誘う
- 着替えをさりげなく目の届く場所に出しておく
- 「病院の日だから」など外出の口実を作り、「せっかくだからきれいにしていこう」という気持ちになるよう仕向ける
- ヘルパーや訪問看護師など、第三者に関わってもらう(家族が言っても聞かないのに、支援者の言うことは聞く、というケースはよくあります)
どれかひとつでもうまくいったら、それで十分。ラッキーくらいの気持ちで。
完璧な対応を目指しすぎると、それ自体がストレスになります。「今日はダメだったな」ではなく、「今日もよくやった」で終われるといい。
③ 「施設も選択肢のひとつ」と知っておく
在宅介護を続けていると、「施設に入れるのは逃げることだ」と感じる方がいます。でも、それは違います。
施設に移ることは、介護を「やめる」ことではありません。
本人により専門的なケアを受けてもらい、家族は「介護者」から「家族」に戻る——それも、ひとつの形です。
こんなサインが出てきたら、施設を考え始める時期かもしれません
- 夜中の徘徊が続いて、家族が眠れない日が続いている
- 介護者自身が体を壊しそうになっている
- 医療的なケアが必要になってきた(胃ろう・吸引など)
- 本人が自宅での生活に危険を感じるようになった
主な施設の種類(参考)
| 施設名 | 特徴 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 要介護3以上。費用が比較的安い。入居待ちが多い |
| 介護老人保健施設(老健) | リハビリが中心。在宅復帰を目標とすることが多い |
| グループホーム | 認知症専門。少人数で家庭的な雰囲気 |
| 有料老人ホーム | 費用の幅が広い。入居しやすいが高額なことも |
ケアマネジャーに「どんな施設が合っているか」を相談するのが最初の一歩です。
④ 在宅看取りを選ぶ前に知っておくこと
「最期は自宅で」という希望を持つ方も増えています。本人の意思を尊重したい気持ちは当然です。でも、在宅看取りには、家族の覚悟と体制が必要です。
知らずに始めて途中でパニックになることがないよう、事前に確認しておきましょう。
在宅看取りに必要な主なサポート
- 訪問診療(定期的に医師が自宅に来る)
- 訪問看護(体のケアや処置を行う)
- 24時間対応できる連絡先(訪問診療・訪問看護のチームが夜間・休日も電話で対応してくれる体制のこと。「何かあったときにすぐ連絡できる医師・看護師がいる」ことが在宅看取りの大前提です)
- 親族の理解と同意(一人だけが「在宅で」と思っていてもうまくいかないことがあります。できるだけ頼れる親族が同じ方向を向いていると、いざというときに支え合えます)
- 本人の意思確認(できるうちに、はっきりと)
「在宅で看取る」と決めても、途中で変わっていい
自宅での看取りを希望していても、本人の苦痛症状が強くなったり、思いのほか長期化して家族が限界になることもあります。
そんなときは、緩和ケア病棟のある病院を考えるのもひとつの選択肢です。「なにがなんでも自宅で」と気負わず、状況に応じて柔軟に考えていい。
そのためにも、途中で話し合える家族・親族がそばにいると、とても心強いです。
思うように看取れなかったとしても
「こんなはずじゃなかった」「もっとできることがあったかもしれない」——看取りのあとに、そう感じる方はたくさんいます。
でも、後悔が残るのは、それだけ精一杯考えた証です。
完璧な介護も、完璧な看取りもありません。どこかで「これでよかったんだ」「あの人の人生は良かったと思う」と、あなた自身が思えるときが来ることを願っています。
⑤ 介護者が倒れたら、介護は続けられない
最後に、一番大切なことを言います。
あなた自身が倒れたら、介護は終わりです。
「自分のことは後回し」にしがちなのが介護者です。でも、介護者が元気でいることが、一番の介護です。
こんな状態が続いていたら、限界のサインです
- 眠れない日が続いている
- 食欲がない
- 「消えてしまいたい」と思うことがある
- 介護している人を「いなくなればいい」と思ったことがある
- 誰にも話せず、ずっとひとりで抱えている
- 趣味や楽しみが何もなくなった
ひとつでも当てはまるなら、今すぐ誰かに話してください。
相談できる場所
- ケアマネジャー(まず最初に)
- 地域包括支援センター(市区町村に必ずあります)
- かかりつけ医
- 介護者向けの家族会・サポートグループ
「こんなことで相談していいのかな」と思うことほど、相談してください。それが支援者の仕事です。
まとめ
在宅介護に「正解」はありません。
うまくいかない日があって当然。焦ることも、腹が立つことも、普通のことです。それでもなんとかやってきた、その積み重ねが介護です。
ひとつだけ覚えておいてほしいのは、「助けを求めることは、逃げることじゃない」ということ。
限界を感じる前に、少しだけ周りに頼ってみてください。


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