「もう、介護したくない」
「何で私が、こんな思いをしなきゃいけないんだろう」
介護を続けるなかで、ふとそんな気持ちが湧いてきて——そして、そう思ってしまう自分を、責めていませんか。
でも、そんなふうに思ってしまうこと自体は、決して間違いではないんです。
「介護は家族がするもの」。確かに、それはごく自然なことかもしれません。多くのご家族が、当たり前のように介護を引き受けています。でも、それが誰にでも当てはまる“絶対のこと”かというと、そうとは限りません。家族の形は、人それぞれだからです。
これは親子に限った話ではありません。長年連れ添ったご夫婦でも、きょうだいでも、これまでの関係があるからこそ抱える葛藤があります。

こんにちは、ケアマネのまげです。今日は、介護を受ける方ではなく、介護をしているあなた自身のためのお話です。
この記事でわかること
・「介護したくない」という気持ちが間違いではない理由
・限界まで頑張り続けた、あるご家族の実話
・つらい気持ちを、ケアマネに伝えていいということ
家族だから仲がいい、とは限りません
ケアマネジャーは、介護の始まりからご家族と関わることになります。
でも、出会ったばかりの私たちには、そのご家族がこれまでどんな関係を歩んでこられたのか、最初はわかりません。仲のよいご家族なのか、長い間距離のあったご家族なのか。表面だけ見ても、なかなか見えてこないのです。
わからないからこそ、私たちケアマネは、ご家族に対して「送り迎えをお願いできますか」「お薬の管理をしていただけますか」と、何らかの役割を求めてしまうことがあります。
そして多くのご家族は、その期待に応えようと、懸命に頑張ろうとされます。最初は、それでうまくいくのです。問題は、介護が長く続いていったときに起こります。
ある一人娘さんの話
私が今も忘れられない、あるご家族のケースをお話しします。親子の話ですが、立場が違う方にも、きっとどこか重なる部分があるはずです。
一人娘のAさんは、結婚して隣町で暮らしていました。ご両親は高齢で、お父さんは認知症、お母さんは糖尿病を患っていました。介護が必要になったことをきっかけに、Aさんは毎日のように実家へ通い、ご両親の世話をするようになりました。
最初にお会いしたときの印象は、「優しくて、とても真面目な娘さん」でした。
当時はお二人とも介護度は軽く、お父さんがデイサービスに週1回、お母さんは糖尿病が悪化しないように訪問看護を週1回利用する程度。まだご自分たちで身の回りのこともおおむねできていました。
ところが、介護が始まって2年ほど経ったころ、状況が大きく変わります。
お父さんの認知症が進行し、お部屋での放尿、異食、徘徊が始まりました。それと前後して、お母さんの糖尿病も悪化し、入退院を繰り返すようになったのです。
Aさんは、本当に頑張りました。
私はデイサービスの回数を増やしたり、ショートステイを利用したりするよう、何度も強くお勧めしました。けれどAさんは、「自分で見ます」と言って、決して弱音を吐きませんでした。
「もう無理です」——倒れて初めて聞けた本音
そして、Aさんは倒れました。
そのとき初めて、Aさんはぽつりと、「もう無理です」とつぶやいたのです。
それから、これまでご両親との間にあったことを、少しずつ話してくれました。
一人娘として大事に育てられた一方で、Aさんは親の期待を一身に背負って生きてきました。お母さんは細かく指示を出し、厳しく教育する人でした。お父さんは地位のある仕事をしていて、家にいない日も多かったといいます。
「母の期待が、重かった」
「父がいなくて、寂しかった」
ずっと胸の奥にしまってきた思いが、倒れたことでようやくあふれ出たのでした。
親への複雑な思いから、本当は介護をしたくない。それでも、一人娘の私のほかに、介護をする人はいない——。Aさんはその二つの気持ちの間で揺れながら、誰にも言えないまま、たった一人で介護を続けてきたのです。
Aさんの本当の声が聞けた瞬間でした。そして、この親子がどんな関係を歩んできたのかが、ようやく私にも見えたのです。
介護が長くなると、抑えていた感情が出てくる
Aさんのように、最初は頑張れてしまう方ほど、注意が必要だと私は思っています。
介護が長く続いていくうちに、それまで抑え込んだり、見て見ぬふりをしたりしてきた感情が、形となって現れてくることがあります。
「介護から逃げたい」
「やりたくない」
「何で私がやらなくてはいけないの?」
こうした思いが湧いてくるのは、あなたが冷たい人間だからではありません。長い間、感情にふたをして頑張ってきた証なのです。
👉 「そろそろ限界かも」と感じ始めた方は、在宅介護で限界を感じる前に知っておきたい5つのこともあわせてお読みください。
その感情を、使命感や義務感で押し殺さないでください
ここが、私がいちばん伝えたいことです。
介護を、使命感や義務感だけでやろうとしないでください。「やらなきゃいけない」「逃げてはいけない」——そう思って自分を追い込むほど、心は限界に近づいていきます。
「介護がいや」という感情は、悪いことではありません。むしろ、それを無理に押し殺してはいけないのです。
葛藤があるということは、あなたがちゃんと介護に向き合っているという証拠です。それでいいのです。
あなたの「頑張れること」と「限界」を、ケアマネに伝えてほしい
では、どうすればいいのか。
私がお願いしたいのは、あなたの葛藤の感情を、まず自分で認めてあげること。そのうえで、「自分がどこまでやれるのか」を考えて、それをケアマネに伝えてほしいのです。
「ここまではできます。でも、これは無理です」
そう言ってもらえれば、私たちケアマネは、それを踏まえて介護の組み立て方(マネジメント)を変えることができます。
実際、Aさんが倒れたあと、お父さんはすぐに緊急のショートステイを利用しました。お母さんは医療的なケアが必要だったので、主治医に相談して、レスパイト入院(介護する人が休むための入院)を活用しました。
Aさんの体調が落ち着き、ご両親が自宅に戻る前に、私はAさんと二人で面談の時間を取りました。これからご両親の介護をどうしていきたいか、Aさん自身の希望をじっくり聞くためです。
戸惑うAさんに、私は「施設入所」という選択肢があることをお伝えしました。Aさんは、お父さんの施設入所を希望されました。そして実際に、入所へとつながっていきました。
ケアマネは、家族のあなたも支えたい
今、振り返って思うことがあります。
私には、もっと早い段階でAさんの葛藤に踏み込めていれば、という悔いがあります。葛藤があることは、薄々感じてはいました。でも、ケアマネがご家族の関係にどこまで立ち入っていいのか——特にデリケートな関係のときほど、私たちは慎重になってしまいます。
ご家族の心の奥にあるものは、こちらから無理にこじ開けられるものではありません。だからこそ、あなたのほうから一言、「実はしんどいんです」と教えてもらえると、本当に助かるのです。
ケアマネの仕事は、介護を受けるご本人を支えることだけではありません。それを支えるご家族を支えることも、同じくらい大切な仕事だと、私は思っています。
それから、もう一つ知っておいてほしいことがあります。あなたが一度話してくれたことが、すべてだとは受け止めません。「どこまでやれるか」という気持ちは、介護を続けるうちに変わっていくものだからです。最初はとても無理だと思えたことが、少し楽になることもあれば、その逆もあります。だから、一度口にしたことに縛られなくて大丈夫です。
あなたが頑張れること、どこまでやれそうかということを、教えてください。逆に、できないことや、やりたくないことも、言ってもらって構いません。その正直な気持ちに合わせて、私たちは何度でも介護を組み立て直します。
そのどちらも、どうか一人で抱え込まないでください。私たちケアマネは、あなたを支えるためにいます。

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